2021年12月、長野県駒ヶ根市にて開催されたフィールドプログラム「ネイチャー・ベースド・イノベーション:SF的思考+自然+再生におけるイノベーションの未来を探る」。2泊3日のフィールドワークの様子をレポートします。
農山漁村の恵みを都市へ、都市の資金力と人材を農山漁村へ
初日のキーノートでは、元環境省・現アトリエDEF顧問の中島 恵理さんから、環境省が提唱する「地域循環共生圏モデル」について講演いただきました。農山漁村から食、水、木材といった生態系サービスを提供し、都市からは資金や人材、アイデアを送り込むことで、地方と都市が繋がりながらビジネスを生み出し、循環型社会と地域の活性化を同時に実現する考え方です。
実践例として、「循環の家」をキーワードに、地元でとれる素材を利用した家づくりと暮らしを提案するアトリエDEFの取り組みが紹介されました。自然資本ビジネスを成り立たせるために必要なのは、地域住民、自治体、民間企業といった関係者同士を繋げる「コーディネーター」と、中島さん。自然の循環の中にビジネスを組み込むヒントを共有いただきました。
自然資本を活かしたビジネスを「生み出す」ヒントと「続けていく」ための仕組み
続く対談では、インフォバーン小林が聞き手となり自然資本ビジネスの現場で起こる課題について、更に深掘り。自治体が市民を巻き込んで自然資本ビジネスを立ち上げるためのヒントや、環境資源と人間のウェルビーイング双方に焦点を当てたビジネス需要の高まり、農村漁村と都市でこそ実現できる価値交換など、中島さんのご経験から貴重な知見を共有いただきました。
地域資源を資本とした、持続可能な経済圏構想
(株)eumoの新井和宏さんには、北海道ニセコ町におけるコミュニティ通貨の事例を軸に、経済的メリットではなく「共感」によって価値を循環させる「共感資本社会」の構想についてお話を伺いました。
続く対談では、デザインファームBIOTOPEの代表として、企業の戦略設計や新規事業創出支援に携わる佐宗邦威氏をお迎えし、金融とデザイン双方の視点から、経済や人間社会の新しい在り方について議論を深めました。
長野県だからこそ実現できる、木材を活かした発電
株式会社信州ウッドパワーの代表 陰山 恭男さんからは、提示する持続可能性の高い発電と木と共にあり続ける日本の林業の可能性についてお話いただきました。信州ウッドパワーでは、製材に使うことのできない全体の3割の木材で発電を実現。プラントから発生する熱を床暖房に使用、木材信州落葉松(カラマツ)を発電所に利用するなどのこだわりがあります。
陰山さんが問いかけているのは、長年言われてきた「日本は本当に資源のない国なのか」という疑問。長野の8割は山であるから、山がある限り持続可能な発電ができるという考えのもと、事業を進めています。また注目されているのは、長野県初とされるGPSトレーサビリティシステムという、燃料となる原木の調達ルートを認証できるシステムの導入。カーボンニュートラルの原理に基づいて、CO2の排出はプラマイ0を実現し、輸送中に出るCO2のモニタリングも行っています。
建設会社から生まれた環境事業。20年で作り上げた、無臭の堆肥作り。
株式会社みのり建設の宮坂 典利さんは、自身の建設会社で環境事業を発足させ、20年間堆肥作りを続けています。宮坂さんは3年間発酵実験を繰り返した上で、発酵時・製品ともに悪臭がしない堆肥を完成させ、さらに富士見町で盛んな畜産を活かした堆肥の大量生産を実現しました。
更に、地域内での堆肥化循環を実践するため、カゴメ株式会社富士見工場と共同出資で「株式会社八ヶ岳みらい菜園」も設立されました。野菜ジュースの搾りかすとトマト栽培の茎・草を堆肥化し、工場で排出されたCO2・温水をトマト栽培に必要な光合成促進や暖房に利用しています。
宮坂さんは「地域内でできる資源循環の余地はまだある」と指摘します。製造業と農業の連携が促進されれば、有機物の有効活用や賛同者ネットワークの構築、CO2・廃熱・再生可能エネルギー利用の達成が可能になるからです。地域内資源循環には「構想」と「異業種連携」のヒントをいただきました。
温暖化/農業/地域課題を同時に解決するソーラーシェアリング
株式会社ガリレオの合原亮一さんには、農地に太陽光発電装置を設置することで発電と営農を両立させる「ソーラーシェアリング」についてご講演をいただきました。
合原さんは「日本における再生可能エネルギーはソーラーシェアリングが最適である」と提案。実際にある資源の中では太陽光が最大であり、コストも安く抑えることができるからです。一方で、設置に広大な面積を要することが課題でしたが、ソーラーシェアリングは農地に設置するため、場所の制約を解決しながら農業と並行することを可能にしました。農家が設置をすれば農地生産性が3倍になり、低収入や耕作放棄等の農業が抱える問題を解決することができます。更に、売電による収益とソーラーシェアリングの営農協力金が地域内で循環することで地域活性化にもつながります。ガリレオはIT会社の性質を最大限に活かし、自社開発のIoT太陽追尾システムによる発電ピーク分散や、作物・天候に合わせた最適制御を実現しています。ソーラーシェアリングは農業・エネルギー・温暖化問題を一挙に解決する可能性を秘めています。
Day2へ続く