「もし人間がイルカを産むことができたら?」

こんなアイデアを聞いた時、どんな言葉が頭の中に浮かぶでしょう。

面白い発想だけど、現実的ではない。自分の住む世界とは全く関係のない話だ。

そんな風に感じる方が多いのではないでしょうか。

このアイデアは、今私たちが実際に直面している社会問題への新たなアプローチを提案する、実存するアート作品の元となったものです。「スペキュラティブデザイン」と呼ばれる、問題解決ではなく、問題提起によって、未来を考えるきっかけを与えるアプローチによって生み出されました。

私たちが日々教科書的に捉えている「社会課題」を、自由な視点で捉えた時、どんな解決方法が考えられるのか?実現までにどんな問題が出てくるのか?実現した先の未来は?

今の延長線上にはない未来社会を、スペキュラティブデザインの視点から考えてみましょう。

「私はイルカを産みたい」

ー『私はイルカを産みたい…(I wanna deliver a dolphin…)』2011-2013年 長谷川 愛

2021年現在、世界の人口は約79億人。私たちは人口増加による食糧不足や経済格差といった問題に直面しています。一方で、環境破壊によって絶滅危惧種認定される動物は増え続け、2021年10月時点で、国連自然保護連合が発表するレッドリストには約3万8000種が記載されており、現状の加速度的悪化は止まりません。

問題の背景には、人間の持つ二つの欲求があります。一つ目は、人口増加の原因ともいえる「子供を産みたい欲求」。二つ目は、環境破壊の遠因でもある「美味しいものを食べたい欲求」。問題解決のためには、今とは別の方法でこれらの欲求を満たすことが求められます。そこで、食べ物として動物を出産するのはどうか?また、人間が絶滅の危機にある種を代理出産するのはどうか?そんな世界観から生まれたのが、長谷川愛さんの「私はイルカを産みたい」という作品です。この作品では、女性がイルカを水中出産し、授乳する様子を再現しています。

この作品が、私たちに投げかける問いとはなんでしょうか。

生命の誕生に手を加えることはタブーなのか?

私たちが生きる2021年の社会では、ゲノム編集や遺伝子組み換えなどの遺伝子操作技術は倫理的に問題視され、実際に使用されるまでに時間がかかったり、使用されないままになってしまうケースが多く存在します。代理母出産についても、多くの国で禁止されています。

一方で、日本では2022年4月から人工授精を含む不妊治療が保険適用となるなど、生命の誕生にテクノロジーが介入する場面は増えてきているのも事実です。

これからの社会において、生命の誕生とテクノロジーは、どのように関わっていくべきなのでしょうか。

なんのために出産するのか?

テクノロジーが発達し、価値観の多様化が進む今、結婚して子孫を残すという人生は当たり前ではなくなりつつあります。これからの社会において、出産とは、誰が、なんのためにするものなのでしょうか?

子孫を残すため?子供を産みたい欲求を満たすため?少子高齢化をはじめとする社会課題を解決するため?

選択の余地が出てきたことで、それぞれの選択肢をより慎重に検討し、決断していくことが求められます。

生き物を食べるとはどういうことなのか?

私たち人間は生命活動を維持するために必要な栄養素を、植物や動物といった生態系から摂取しています。捕食される生物の視点から考えてみると、この事実はどういうことを意味するのでしょうか。また、食べることを目的とした出産は存在しうるのでしょうか。

社会における生命への価値観

この作品を通して感じたのは、生命に対する価値観の揺らぎや、「社会問題」は、政府や企業だけが問題解決の当事者ではない、すなわち、社会にいるすべての人が解決できる可能性を秘めているということ。

価値観がアップデートされた社会では、生命とテクノロジーの関わり方が今とは大きく変わっているでしょう。遺伝子組み換え食品市場の成長や、不妊治療のケア製品の需要拡大など、新たなビジネスチャンスの創出も期待されます。

また、自由な発想が許容される社会になれば、人口爆発や気候変動といった国家レベルの問題に、個人や企業が介入できる余地も増えていくでしょう。そのような社会で、企業や個人には、どのような態度が求められるでしょうか?

スペキュラティブデザインが開く、「想像」を超える「創造」的な未来の可能性

予測不能な未来に柔軟にアプローチするヒントを与えてくれるスペキュラティブデザイン。未来のビジネス市場を捉え直し、新たなビジネスチャンスを生み出すきっかけにもなりうるでしょう。

11月22日には、今回ご紹介した「私はイルカを産みたい」の作者、長谷川愛さんをゲストにお招きしてイベントを開催します!

お申し込みはこちらから:https://greenshift-s2-preevent.peatix.com/