長期的に循環し、持続し続けるエコシステムを体現する場所として、今多くのイノベーターたちが「ローカル(地方都市)」に注目を寄せています。既存の発想では「森、山、海など、自然はあっても人がいない」といった印象が先行しがちですが、その前提を覆すような事例が日本各地で生まれています。

2022年4月27日に開催するイベントは「実践するサーキュラーデザイン 〜京都の事例から考える新たな価値創造〜」と題し、京都で活動をされる津田 和俊さんと安居 昭博さんの2名をゲストに迎え、ローカルの特性を生かした循環型のものづくりや事業創出について対話を深めます。

この記事では、ローカルの可能性を示唆する事例として、世界のクリエイターの視線を集める京都府京北町、デジタルファブリケーションを取り入れる岡山県新庄村、住民で新しいエネルギーを生み出した岐阜県石徹白の、3つの地域の取り組みをご紹介します。

世界のクリエイターが共感する「里山の知恵を世界に繋げる」というミッション

出典:rootsjourney.jp(2022年4月25日最終閲覧)

京都市から40分ほどでアクセスできる利便性を備えながら、総面積の93%が森林に覆われる京北町。「京都の屋根」とも呼ばれるその地では、過疎化による働き手減少や空き家増加が問題視されてきました。

そんな京北町は今、世界中からイノベーターやクリエイター、アーティストが訪れ、教育プログラムや地域ブランディングに取り組んでいるといいます。世界の名だたる都市の中から、なぜ過疎地域の京北が選ばれるようになったのでしょうか?

立役者となっているのが、「ROOTS」というソーシャルデザインファーム。「里山の知恵を世界に繋げる」というミッションを掲げ、山へと人の暮らしを繋げるウッドサウナ建築や、木こり、萱葺き職人、大工といった職人育成のためのスタディーツアー、デザイン・エンジニアリング専攻の海外留学生と現地の大工のマッチングなど、様々な取り組みを行っています。

再生型デザインを実践するグローバルのイノベーターやクリエイターにとっては、日本のローカルで地域課題解決に取り組んだという経験と実績が強力なブランドになるのだそう。従来的な量産型のビジネス・プロダクト開発ではなく、未来のスタンダードになる「リジェネラティブ」という概念をプロジェクトで体現することで、世界のどの都市にも負けない唯一無二の価値を創出できる、ローカルの大きな可能性を感じた事例でした。

樹齢100年のヒノキとデジタルファブリケーションの融合で創る未来

出典:さとのふ企画室(2022年4月25日最終閲覧)

明治5年に成立以降、市町村合併に反対し続け、独自の運営を守り抜いてきた新庄村。「日本で最も美しい村」としても有名ですが、実は人口は約850人ほどで京北町と同様に過疎化と高齢化に加え、高校以上の教育機関がないため、若年層や担い手不足が課題となっていました。

そんな中でも「小さくても合併せずに自主自立の村を目指す」という宣言をし、取り組んできたことのひとつが、2021年1月から始動した「Fab Space Shinjo」です。今回のイベント登壇者である津田さんも関わる「ファブビレッジ構想」の一環として作られた、デジタルファブリケーションのものづくりができる木工場で、世界最先端の木材加工専用CNCルーター「ShopBot」などが導入されています。

地元産ヒノキでエレキギター 新庄の香山さん、第1号機完成へ:山陽新聞デジタル|さんデジ
出典:山陽新聞 地元産ヒノキでエレキギター 新庄の香山さん、第1号機完成へ(2022年4月25日最終閲覧)

このスペースから生まれた「新庄村ならではの資源を活かしたプロダクト」が、地元のヒノキで作られたギター。樹齢100年を超えた新庄村の天然ヒノキは、ギター製造に使われる外国産広葉樹と比べても、高いクオリティーを期待できるとされています。また、shopbotを活用することで、ハイクオリティなオーダーメイドでありながら安価を実現できるのだそう。

他にも、木材の生産から出荷までのサプライチェーン構築や、タイニーハウス、林業者との連携強化など、様々な事業に取り組む「Fab Space Shinjo」。新しいモノづくりの輪がこれからもますます広がる予感がします。

電力自給率230%。住民主導の水力発電で人の流れを取り戻す

人口250人。冬は大人の身長をゆうに越える雪が積もる農村部として知られる岐阜県石徹白。古来より信仰の対象とされた白山の麓にあり、多くの修験者の出入りで栄えた集落です。住民は神に仕える民として特別に年貢を免除され、独自の文化が育まれ、自給自足の暮らしが営まれてきました。そんな特別な集落も、いつしか外のモノにお金を出して取り入れ、人までもが都市部に流入してしまうようになります。

かつてのように、人とお金が地域で循環するには何をすべきか?その問いの答えとなったのが、豊かな水資源を活かした小水力発電所の設立です。住民主導で始まったこの取り組みは、当初は消極的な態度も見られましたが、徐々に可能性を実感する人が増加し、最終的には集落ほぼ全戸の出資によって、2016年に『石徹白番場清流発電所』として稼働に至りました。

現在の石徹白では、230%近い自給率で発電し、自給自足を超えて売電収入が入ってくるようになりました。更に、水力発電がきっかけで石徹白に移住する人が増えたり、ゲストハウスやカフェの運営、お米や特産とうもろこしの営農など、様々な活動が見受けられます。きっかけは水力発電。そこから徐々に住民の自治の意欲がわき始め、現在の盛り上がりを見せているのです。

今回の記事でご紹介したのは、各事例の簡単な概要ですが、4月27日のイベントでは、津田さんと安居さんが取り組むプロジェクトについて詳しいお話を伺います。持続可能なイノベーション創出や未来のビジョンデザインにご関心をお持ちの新規事業 / 事業開発ご担当者の方、環境問題関連の取り組みにご関心をお持ちの行政・自治体の方、是非ご参加をお待ちしております!

参加申し込みはこちら:https://idl.infobahn.co.jp/202204